透明な樹脂の用途と使い方
「透明な樹脂」の特性に応じた使い方を書いてみます。ジュースの樹脂ボトルはなぜペットボトルなのか、水族館の巨大水槽はガラスじゃなさそうだけど何でできてるんだろう、そんなお話にしようと思います。
アクリル
おそらく普通の人が目にすることが一番多いのはアクリル樹脂です。たとえば・・・ファミレスでレシートを丸めてぽいっと入れるアレ。
透明度が高く、切断面を研磨することでピカピカ(鏡面仕上)にできるのがアクリルです。清潔感を求められる伝票差しが若干濁った色をしてると・・・なんとなく汚そうに見えますよね。
これはアクリル樹脂をパイプ状に押し出したものを輪切りにしてから綺麗に磨いて全面を透明にしてます。他には見られない透明感が一番の特徴です。
そして先ほど書いた巨大水槽。これもアクリルが使われています。
水族館の概念を変えた巨大アクリルパネル製作技術 – 第1回受賞者 過去の受賞:ものづくり日本大賞
アクリルの残念な性質に「割れやすい」というのがあります。粘り気が少ないので衝撃に弱い。カナヅチで叩いたりするとバリバリに割れます。そこで水槽などにする場合は厚みを増やしてやって「局部的に衝撃が加えられて割れる」のを防いでいます。大きな水槽などになると数十ミリという厚みのアクリルで水槽が作られていますが、これはある厚みのものを数枚貼りあわせて作るんです。これもアクリルメーカーの腕の見せどころなんです。
塩化ビニール
これもよく見かける樹脂です。学校の下敷きとか水道管、雨樋など。家の外側でよくみかける波板。安物は塩ビで高いものはポリカーボネートです。
透明度はアクリルよりだいぶ落ちますが、粘り気が強いので割れにくいです。この「割れにくさ」によって配管や波板に使われます。可塑剤(かそざい)を入れることで柔らかい塩ビ(軟質塩ビ)が作れます。テーブルクロスなどによく使われる透明のものです。
アクリルのような透明感はありません。若干青い色がついていたりします。テーブルクロス以外にも壁紙とかタイルカーペットとか雨合羽とかにも使われてます。それに対して可塑剤を入れないものは硬質塩ビといって配管(雨樋など)などに使われます。
値段も安いし透明度もそこそこ、粘り気もあって優れものですが、弱点といえば低温のときに割れやすい事、燃やす温度によってガスが出るなどの問題があります。一時「ダイオキシンは塩ビを燃やしたら出る」と言われてましたけど、あれは半分ウソ。ダイオキシンが出るのは燃やす温度とか状況に左右されるんですよね。塩ビを燃やしたときに問題になるのは、塩ビを作るときに入れる安定剤に入っている鉛とかカドミウムなどの金属類と塩化水素の発生のほうでしょうね。
長い間外にほったらかしにしておいて軽く叩いたらバリバリに割れる配管とかっていうのはほぼ塩ビ配管です。環境で劣化しやすいのが欠点です。
PET樹脂
ペットボトルでお馴染みのPET樹脂。昔から衣服の生地でつかわれる「ポリエステル」の一種です。炭素、酸素、水素が主成分なので燃えやすい、低温度でリサイクルしやすい、という利点があります。
そして食品衛生法をクリアしているのでジュースなどを入れることが出来るのが最大の利点でしょう。ただし、牛乳についてはこの法律で許可が降りないため、PETボトルで牛乳は売っていないはずです。
透明性がよく、素材本体が無味無臭であることも食品にピッタリ。粘り気が強く割れにくい、繊維状にすることもできるからPETボトルを再利用したフリースの服とかもありますよね。
ポリカーボネート
強化ガラスの100倍以上の強度があるポリカーボネート。カナヅチで叩いても「割れる」ということがありません。VIPが乗る車の防弾ガラスは強化ガラスとポリカーボネートの積層だったりしますし、警察や軍の防弾チョッキの中にも使われています。
強度が強く、火を付けても燃えない(自己消化性)もありますね。塩ビにくらべ屋外での耐候性も強いので、カーポートの屋根とか波板にもよく使われます。透明度も高く、採光の窓にもピッタリ。熱伝導率が悪いので断熱効果も高いんです。
ただし、値段がかなり高いのがなによりも問題。分厚いポリカーボネート板なんてびっくりするような値段。
そしてその強度は軍用としても十分な機能があるため、その昔、冷戦時代の対共産圏輸出統制委員会(COCOM)で輸出を規制されてたこともありました。今ではどうなんだろう。
こんなポリカーボネートのボールならどんな硬い料理をガシガシやっても大丈夫ですよ(^_-)
一見どれでも同じように見える「透明な樹脂」のあれこれ。実はちゃんと機能とか特徴を活かした使い方をしているんです。強度重視なのか、透明度重視なのか、値段重視なのか、リサイクルを重視なのか。いろんな要素が絡んでいるので面白いですよ。
ナイロンは、とか白い樹脂(ポリエチレン、ポリスチレン、ジュラコン、ナイロン系とか)などのあれこれもいつかまた改めて。