近江商人らしからぬ言葉に違和感を感じた
以前、近江商人の商売についての記事を書いたことがあります。
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この記事の中でも触れたのですが、成功哲学や商売哲学のようなブログやサイトの中でよく見かける「近江商人十訓」というもの。以前からその文言に違和感があるなあと思っていました。
非常にたくさんコピーされてインターネット上でシェアされているため、あたかも「これこそが近江商人だ!」のようになっているのですが。
とりあえず貼ってみます。
一、商売は世のため、人のための奉仕にして、利益はその当然の報酬なり
二、店の大小よりも場所の良否、場所の良否よりも品の如何
三、売る前のお世辞より売った後の奉仕、これこそ永遠の客をつくる
四、資金の少なきを憂うなかれ、信用の足らざるを憂うべし
五、無理に売るな、客の好むものも売るな、客のためになるものを売れ
六、良きものを売るは善なり、良き品を広告して多く売ることはさらに善なり
七、紙一枚でも景品はお客を喜ばせる、つけてあげるもののないとき笑顔を景品にせよ
八、正札を守れ、値引きは却って気持ちを悪くするくらいが落ちだ
九、今日の損益を常に考えよ、今日の損益を明らかにしないでは、寝につかぬ習慣にせよ
十、商売には好況、不況はない、いずれにしても儲けねばならぬ
近江商人の商売の哲学の根底には「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方良しがあると言われています。
ところが・・・この十訓、おかしくないですか?
一番私が違和感を感じるのはこれ。
今日の損益を常に考えよ、今日の損益を明らかにしないでは、寝につかぬ習慣にせよ
三方良しというのは今日明日など目先の利益を追い求めることではありません。今日は客の事を考えると損をするかもしれない、でも長期的な視点で考えれば売り手にも買い手にも世間にも良い商売というのは必ずあります。損して得取れともいいますが先行投資というのは否定されるものではありませんし。
もちろん損益を重視する経営は大事です。この文言自体を否定するわけではないのです。でも近江商人の教え、ではない気がして。
少し真剣にこの一から十までの言葉について原典を探してみることにしました。
「近江商人十訓」原典を探してみたのですが
ここからは一つ一つの原典を探しながら、その作者や本などを紹介してみたいと思いました。ところが。
この10個の格言はすべて松下幸之助さんのものでした。「商売戦術三十か条」という古い本。あっという間に答えが見つかってしまったがっかり感。
「商売戦術三十カ条」は、昭和11年に創刊された、松下電器(現パナソニック)の協力店向け情報誌『松下電器連盟店経営資料』の創刊号と第2号に掲載されました。
正確には、幸之助本人がまとめたものではなく、幸之助が創業以来、従業員たちに折にふれて話していた商売に関する考え方の要諦を従業員がまとめたもののようです。
全文を紹介しようと思いましたが無断転載や無断コピーはPHP研究所から禁止されていますのでこの記事においては掲載しません。ぜひお手元に実際の本を購入することをおすすめします。
松下幸之助さんは滋賀県出身ではありません。和歌山県の出身で、9歳に大阪へ奉公で出て23歳に起業したのが松下電器産業株式会社へと成長、数々の経営哲学の本なども出版している成功者です。
自ら創業して会社や社員を育てていったことで生まれた哲学を広めることにも尽力した人としても知られています。
松下電器産業株式会社からパナソニックになったことで私はなんとなくその気概がすこし薄れたような気がしていますが(商売をしたことがあるものですから)。
さて、松下幸之助さんが起こした彼の哲学を広めるための会社(PHP研究所)のHPには松下幸之助さんの生涯や哲学がふんだんにまとめられているのですが、そのなかの松下幸之助を知る Q&Aが非常にわかりやすくておすすめです。
私もビジネス書を大量に読んでいた時期があるのですが、「良い上司は良い部下である」という信念の元(本当かな)、本を二冊カバンにいつも入れて持ち歩いていました。
これを書かれた江口さんは松下幸之助さんの側近中の側近として、秘書室長でもありPHP研究所の創業を手がけた人でもあります。
実際に松下幸之助という人に23年にもわたって仕えたことで聞いた言葉などをまとめたのがこの2冊。穏やかな中にも経営への強い信念や社員への愛情などは上司としても部下としても会社とどう向き合うかについて非常に学びのある本です。
私が買ったこの本二冊は文庫本サイズであり、ビニールカバーがかけられていたことで「常に持ち歩ける」非常に良い本でした。今ではKindle版もあるのでスマホなどに入れておくこともできますね。
初めて上司になる時、初めて社会人になったとき、嫌いな上司がいるときなどにちょっと眺めてみると違う視点で会社を上司を部下を見ることができるかもしれません。
最後に
十か条をすべて調べ上げてみようと思ったものの、まさか松下幸之助さんですべて見つけてしまうとは・・・。
近江商人ではなかった松下幸之助さんですが、経営哲学として人間哲学として色褪せることなく今も言葉が輝いているわけで。
今回は縁があってこの言葉たちに触れることができたような気がします。言葉の重みを味わいつつ、仕事に向き合いたいと思いました。
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